梵字はもともと、古代インドでサンスクリット語を書き表すために使われた文字です。しかし、長い歴史と広大な国土と持つ古代インドでは、時代や地域により様々な文字が使われていました。そのため、サンスクリット語を表す文字も1つではありませんでした。


梵字の誕生

梵字の起源となった文字の一つにブラーフミー文字があります。紀元前三世紀頃に使われたブラーフミー文字は、後に多くの派生型文字を生み出しましたが、六世紀頃に使われていたシッダマートリカー文字もその一つ。当時記された経典の多くがシッダマートリカー文字で書かれていましたが、経典はやがて中国へ伝わることになります。

 

 七世紀頃の中国(唐)。インドから伝わった経典が漢訳されましたが、シッダマートリカー文字で記されていたものが数多くありました。漢訳されたシッダマートリカー文字は「悉曇文字」と呼ばれ、現在まで続くものとなりますが、これが私たちの知る梵字と言ってよいでしょう。

現存する最古の梵字般若心経「梵本心経并尊勝陀羅尼」 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)
現存する最古の梵字般若心経「梵本心経并尊勝陀羅尼」 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

梵字に秘められた神秘的な力

不思議な形をした梵字ですが、その中には多くの意味が込められています。ひと言では言い表せない、仏の悟りの世界をが象徴的に表現されたものが梵字なのです。密教ではこれを種子(しゅじ)といい、神秘的な力を持つ呪文「真言」を表すものとして、とても大切にされています。

数えきれない悟りの真理を含んだ梵字は、まさに仏さまそのもの。心を込めた梵字には神秘的な力が宿るでしょう。